【源氏物語】第二帖 「帚木」のあらすじを分かりやすく紹介

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十七才に成長した源氏。
この帖には源氏物語の中でも有名な「雨夜の品定め」が書かれています。
源氏を含めた四人の男による恋バナ。
それぞれ我こそはというプレイボーイ達が、自らの経験談や恋愛論を夜を徹して語っていきます。

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雨夜の品定め

五月雨の夜、源氏の元へ頭中将が訪ねてきた。
頭中将は源氏の妻である葵の上の兄であり、源氏とは好敵手である。
そこに左馬の上と藤式部の丞も加わり、4人で女の品定めを始める。

女性の身分は中流がいい?

女性の身分について、頭中将は中流の女性が一番よいと語る。
その理由として、上流の女性は人目から隠されているため、大抵自然とよく見えるものだし、下流の女性は噂もほとんど流れてこないためそもそも興味がない。
一方、中流の女性は上流の女性ほど隠されていないので個性が分かりやすく優劣がつけやすいからだという。

頭中将のこの意見を聞いた源氏は、そもそもの上・中・下の定義を知りたがる。
もとは上流で没落した女性や中流の女性が成り上がって上流になった場合はどうなるのかということだ。

これに答えたのは左馬の上である。
没落した上流の女も上流に成り上がった中流の女も、やはり中流だと。
そして、左馬の上も頭中将と同じように中流の女性を評価する発言をする。
左馬の上が語る中流の女性がよいとする理由は次の通りであった。
「中流の女で世間の声も悪くなく、もともとの素性もよい女がゆったりと暮らしているのがよい。帝に見初められ幸運をつかむのも中流の女に多い。人が住んでいないようなひっそりとした家や父親や兄の容姿からは想像もつかないような家に可憐な女が閉じこもっていると、妖しく心が奪われ、わずかな芸事の才能であっても心がそそられる」

結婚相手に相応しい女性とは?

続いて、理想の結婚相手についての話へと移っていく。
この話題について多く語るのは左馬の上であった。
以下、左馬の上が語る理想の結婚相手像である。

「恋の相手として付き合う分にはよくても、結婚をする相手を選ぶのは苦労するものである。
夫の世話をするという点では、いつも情趣にこだわり、事あるごとに歌を詠んだりするのもよくないが、身なりを気にせず、夫の世話ばかりしているのもよくない。
最初からひたすら無垢で無邪気な女を一から教えていくのも悪くないが、離れて暮らしたときに何もできないようでは困る。
普段は愛想がなくても何かあったときに頼りになる働きをみせ、感心することもあるし・・・」

左馬の上の中で、理想の結婚相手の結論はなかなか出ない。
さらに話は続く。

「やはり、家柄や容姿は気にせず、どうしようもない欠点さえなければ、堅実で静かな性格の女を選ぶのがよい。
それ以上のたしなみや働きがあったらもらいものだと考えるのだ。
しかし、あまりにも静かで夫に不満があっても言わず、我慢の限界がきたら置手紙や歌を残し身を隠してしまうのはわざとらしいあてつけである。男が少し他の女のところに行ったからといって騒ぐのもよくないし、あまりに放っておくのもよくない。
恨み言を言いたい場合もほのめかす程度にしておけば男は女のそんな姿を不憫に思い、愛しさも募るものである。」

そして、左馬の上はこのように考えるように至った体験談を語りだす。

左馬の上が恋した嫉妬深い女と浮気な女

左馬の上は昔に恋した女の話を始めた。
彼女は左馬の上のために尽くし、身なりを整えることを疎かにすることもなく、また、出しゃばることもない淑やかな女性であった。
しかし、唯一の欠点があまりにも嫉妬深い点である。
左馬の上は少し懲りるように脅かしてやろうと、愛想をつかしたふりをした。
すると彼女も今が別れ時かもしれなと言い始め、喧嘩はヒートアップしていき、女は左馬の上の指に噛みつく。
そのまま喧嘩別れになり(左馬の上は本当に別れるつもりはなかったが)、左馬の上が意地を張って、他の女との縁を切ると言わずにいる間に、女は亡くなってしまった。
左馬の上は何もかも任せる結婚相手の女としては彼女は申し分ない相手だったのに、つまらない冗談はやめておくべきだったと後悔している様子であった。

さらに続けて、もう一人の女性について話し始める。

彼女は先ほどの嫉妬深い女と同じ頃に、通っていた女性であった。
人柄もよく、歌、文字、琴の音、どれをとってもなかなかのものだった。器量もまあ悪くはない。
嫉妬深い女が世話女房とするならば、この女性は時々隠れて通う分に気に入っていた。
そのため、嫉妬深い女が亡くなってからは自然とこの女に足が向くようになっていた。
しかし、結婚相手として考えると少し派手すぎて色っぽく浮気らしい点が目につき始め、だんだんと通う頻度が少なくなっていった。
ある夜、左馬の上はその女が他の男と会っている姿を目撃してしまう。
そして、その女とは別れることにし、彼女のような女は浅い関係であればいいが、生涯の伴侶とするには危なっかしくて、嫌気がさすものだと思うのであった。

頭中将が忘れられない女

左馬の上の話を聞いていた頭中将も一人の女性のことを思い出していた。
以下、彼が未だに忘れられない女性の話である。

彼女は頭中将の浮気を恨めしく思いながらも何も言わず、心から仕えようとしていた。
頭中将もその姿がいじらしく、幾久しく自分を頼りにするようにといつも慰めていた。
しかし、彼女の優しさに甘え、久しく訪れないでいる間に、頭中将の正妻が脅迫がましいことを人伝えに伝えていたのであった。
彼女には頭中将との間に子もいたため心細くなったのか、撫子の花を添えて頭中将へと手紙を送る。
しかし、その手紙の内容からは頭中将の浮気な点を、心の底から恨んでいるようには見えないし、会っても涙も隠そうとするので、頭中将は大したことはないだろうと放って置くことも多かった。
すると、ある日突然、彼女は姿をくらましてしまった。
頭中将はうるさいほど付きまとってくれたら行方知らずにすることもなかったのにと今でも後悔している。

藤式部の丞の滑稽な話

頭中将は、藤式部の丞のにも何か話はないかと催促する。
藤式部の丞が話し出したのは、賢女についてだった。

藤式部の丞が出会った女性は、公のお勤めのことも相談でき、私的な世渡りの処世術も身につけている博識な女性であった。
手紙も仮名を交えず漢字ばかりのさっぱりとしたものをよこし、夫婦の寝物語にも学問についてや官吏の心構えなんかを教え込んでくるほどである。
藤式部の丞は、彼女から漢詩や漢文についても学んだため、その恩は忘れていないが、自分が不躾なことをしてしまわないか気が引けてしまうため、妻として頼りにするには相応しくないと思っている。

藤式部の丞は彼女について、何とも滑稽なエピソードも語る。

久しぶりに彼女の元を訪ねてみると、いつもの部屋ではなく几帳越しに話をされる。
最初はなかなか訪ねてこないことに怒っているのかとも思ったが、そうではなく、風邪で体調を崩しており、にんにくを食べているから近くには寄れないとのこと。
藤式部の丞は返す言葉も失ってしまったそうだ。

このような話を聞いている中でも源氏は自らの話をすることはない。
それどころか、他の三人の話を聞きながら思い出すのは藤壺の宮のことであり、彼女こそ全てにおいて過不足のない女性だと一層恋しく思うのであった。

源氏が初めて出会った中流の女

雨夜の品定めの翌晩、源氏は方違えに左大臣邸に出入りしている紀伊の守邸へと行く。
そこには紀伊の守の父である伊予の介の若い後妻である女性がいた。「空蝉」である。
彼女は昨夜の話に出てきた、「中流」の身分の女性で、結婚前は気位の高い女だと評判だったため源氏も興味がわいた。
そしてその夜、源氏は無理やり彼女と一夜を共にする。
彼女は、伊予の介の妻となる前なら、いつの日か源氏が心から愛してくれる日が来るかもしれないと自分を慰めることもできたかもしれないが、一夜のかりそめの関係だと思うとこれ以上の悲しみはなく、源氏に対してひたすらに素っ気ない態度を取り続ける。

その夜の後も、源氏は彼女の弟である小君を文使いとするために可愛がり、手紙を送る。
しかし、彼女は弟を通じて渡される源氏からの恋文に対しても厳しい態度を取り続けるのであった。

【感想】書かないことで表現する力

源氏物語の第二帖である「帚木」。
この帖には有名な「雨夜の品定め」が添えられてます。
雨がしとしとと降る夜に男たちが、女についてあーでもないこーでもないと語り合う姿は、賛同できる点もあれば反論したくなる点もあり、引き込まれます。
正に恋バナ。いつの時代も恋バナは盛り上がるものですね。

しかし、今回注目したいのは、自分の恋愛観を語る三人の男たちの横で、ほとんど話をしない源氏の姿。
この雨夜の品定めでは、源氏が自分の意見を口にすることはほとんどなく、一歩引いて話を聞いています。
この姿が物語るのは源氏の藤壺の宮への想いです。
藤壺の宮は源氏の義理の母にあたり、言わずもがな、道ならぬ恋。
この恋を口にすることは決して許されないのです。
源氏が恋バナに参加しないのは、話したくても話せないからなのではないでしょうか。
源氏の恋愛論は藤壺の宮抜きでは語れないのです。
それほど、源氏の中で藤壺の宮の存在が大きくなっているということなのでしょう。

源氏が自分の恋を口にしないことで逆に語られる、藤壺の宮への一途な思い。
あえて書かないことで源氏の深く秘められた想いを表現する力は圧巻です。

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