【源氏物語】第八帖「花宴」のあらすじを分かりやすく紹介

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春になり宮中では桜の宴が開かれます。
源氏や頭中将の漢詩や舞によって大いに盛り上がる宴となります。
夜も更け、月に照らされ静まり返った宮中をさ迷い歩く源氏。
そこに通りがかった美しい女性に心惹かれた源氏は彼女と一夜を共にします。
朧月夜に出会った彼女の正体とは?

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月だけが見ていた運命の出会い

春になり、桜の宴が開かれた。
藤壺の中宮や東宮、弘徽殿の女御をはじめ、この日の盛大な催しに宮中の大勢の人が参加する。
「春」という題目で漢詩を詠む源氏。
その声はいつもながら、大変美しい。
源氏に続いて漢詩を詠む頭中将も、落ち着いた雰囲気で堂々としており、立派なものである。
二人は見事な舞も披露し、花の宴は源氏と頭中将を中心に夜が更けるまで続いた。

宴が終わり、皆それぞれ退出していく。
先ほどまで賑やかだった場所がひっそりと静まり返り、月だけが明るく昇っている様子が大変美しく、ほろ酔い気分の源氏はその場を去りがたい気持ちでいた。
藤壺の中宮に会える隙はないだろうかと藤壺のあたりをうかがい歩いてみるが、扉はしっかりと閉められている。
がっかりし、あきらめられない思いのまま今度は弘徽殿に立ち寄ると、思いがけないことに扉が開いている。
源氏はこんな風に不用心にしていることが原因で情事の間違いが起こるのだなどと思いながら中を覗き見る。

そこへ、若々しく美しい声の女性が「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさみながらこちらへやってくる。
※照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき、新古今和歌集、作:大江千里意味:煌々と照るでもなく曇りきるでもない、春の夜のおぼろ月に及ぶものはない
嬉しくなった源氏は女性の袖をとらえ和歌で口説くと、廂の間に抱きおろし扉を閉めてしまう。
突然の出来事に怯える彼女に源氏は「私は皆に許されているから、人を呼んでも何にもなりませんよ」と声をかける。
その声を聞き、男の正体が源氏だと気づいた彼女は少し安心し、恋の情緒も分からない女だと思われたくないとそのまま夜を一緒に過ごす。
そんな彼女のことを若くて初々しく、強く拒むことも知らない可愛らしい人だと思う源氏。
彼女が誰なのか分からないと手紙の渡しようもないからと名前を聞くが、彼女は教えてくれない。
そうこうしているうちに周りが起き始めたため、せめて二人が出会った証にと互いの扇だけを交換し別れる。

朧月夜の君の正体とは

桐壺に戻った源氏は先ほどの女性のことに思いを巡らせる。

とても美しい人であったが、弘徽殿の女御の妹なのだろう。
しかし、複数いるため何番目の妹なのか分からない。
初心な所作を見ると五の君か六の君あたりか。
もし、政敵である右大臣が東宮に差し上げようとしている六の君だとすると、気の毒なことをしてしまったかもしれない。
それはそうと、これで終わりとは思えないのに、どうして手紙を渡す方法を考えなかったのだろう。

あれこれと考えてしまうのも、源氏が彼女に心惹かれているからなのだろう。
去り際に交換した彼女の扇は、桜の三重がさねで、桜色の濃い方に霞んだ月を描き、それを水に映した趣向は平凡ではあるが、持ち主の風情がしのばれるほど使いならされているものであった。

一方の朧月夜の君。
源氏との夢のように儚い一夜の逢瀬を忘れられずにいた。
しかし自分は四月には東宮へ入内する身。
ただもうやるせなく、思い乱れるのであった。

再開

三月二十日を過ぎたころ、右大臣邸で藤の宴が開かれることとなり、源氏も招待された。
桜がさねの直衣を身にまとい、優雅に席に入ってくる源氏。
その姿は藤の花の香も圧倒されて、かえって興ざめなほどである。
宴は楽しく進み、夜が次第に更けていく頃、源氏はひどく酔ったふりをして、そっと席を立ち、屋敷の東側の戸口まで行き、戸によりかかる。
藤の花は屋敷の東側の角あたりに咲いていたため、女房達が格子などを上げ、御簾の際まで出てきていたのだ。
この中に自分が探している朧月夜の君もいるに違いないと思う源氏。
おどけた声で「扇を取られて辛い目をみた」と催馬楽の替え歌を謡うと、事情を知らない女房たちは「風変わりな高麗人ですこと」などと言っている。
その中に一人、時々ため息をつく人の気配がある。
源氏は身を寄せ、几帳越しに手を握り、朧月夜の君を探している思いをのせて和歌を詠む。
彼女も感情を抑えきれなくなったのか「本当に愛しているなら迷うこともないでしょうに」と和歌が返ってくる。
その声は間違いなく朧月夜の君であった。

【感想】源氏と朧月夜の君は似た者同士?

当ブログの夕顔の帖の感想でも述べたように、源氏は恋に障害が多いほど燃えるタイプの男性です。
一方で、藤壺や空蝉のように源氏への切ない思いを抱えつつも、許されない恋であるということを理解し、時に強く源氏を拒む態度を見せる貞淑な女性が源氏物語には多く登場します。

しかし、朧月夜の君は違います。
彼女は源氏との運命のような出会いで感じたときめきを大事にし、結ばれてはいけない相手であるはずの源氏を強く拒む態度は見せません。
それどころか彼女が詠む歌は恋を楽しんでいるようなものであったりします。
花宴において朧月夜の君が詠んだ歌を2つ紹介します。

うき身世にやがて消えなば訪ねても草の原をば問はじとや思ふ
(辛い身のまま私が消えてなくなってしまっても、あなたは草原の中を探して訪ねてきてはくださらないのでしょうか)

心いる方ならませば弓張の月なき空に迷はましやは
(本当に深く心惹かれていらっしゃるならば、月のない闇夜でも迷うことがあるでしょうか。迷わず私の元へ来られるでしょうに。)

一つ目の歌は源氏から名前を問われた際に、二つ目の歌は二人が几帳越しに再開し、ずっと探し迷っていたのだと言う源氏に対して詠んだ歌です。
どちらもちょっと挑発的で恋に積極的な様子が感じ取れます。

源氏と朧月夜の君。
悪く言ってしまえば先のことはあまり考えず本能のままに突き進むタイプ。
よく言えば自分の気持ちを大事にし、正直に生きるタイプ。
二人とも「許されない相手」という障害さえも恋のスパイスとして楽しんでいるのです。
そんな似た者同士の危なっかしくもロマンティックな恋の行く末は…

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