【源氏物語】第七帖「紅葉賀」のあらすじを分かりやすく紹介

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朱雀院への行幸に先立ち、清涼殿では予行演習が行われ、源氏の美しい舞を見た者たちは皆、感動し涙を流します。
その中に一人、複雑な心境で源氏を見つめる女性が。
源氏との間に不義の子を身籠った藤壺の宮です。
彼女の苦しみが消えることもなく、ついに運命の皇子が誕生します。

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源氏の美しい舞さえも藤壺の宮の心を苦しめる

十月十日過ぎに朱雀院への行幸が行われる。
その際に行われる催しはこれまでにないほど格別だと予想されていたが、後宮の妃たちは見ることはできない。
藤壺の宮にも見せたいと思った帝は清涼殿の前庭で予行演習を行うことにした。
源氏も青海波を舞う。
源氏の舞は世にまたとないほど素晴らしいものであり、帝をはじめ、見ていた者たちは感動し、涙を流す。
ただ一人、藤壺の宮は、源氏との過ちさえなければ他の者たち同じようにすばらしい舞に感動できたのにと思う。
あの夜のことも目の前で舞を舞っている源氏の姿も全て夢のようだと感じるのであった。
その夜、帝に予行演習の感想を聞かれても「とても結構でした」と答えるしかできない。

翌朝、源氏は藤壺の宮へ手紙を送る。
昨日の舞は藤壺の宮への切ない思いが湧き出てくるままに舞ったのだと。
いつもは返事をすることが少ない藤壺の宮。
しかし今回ばかりは昨日の源氏の美しい姿を思い出し、心の奥底に秘めた思いを隠し切れず、並々の思いでは見ていられなかったと返事を送る。
源氏はその手紙を大事に広げていつまでも眺めているのであった。
本番当日も源氏は素晴らしい舞を披露し、正三位に昇進する。

藤壺の宮は出産のため里に戻る。
源氏はなんとか藤壺の宮と会えないものかと様子を伺いに訪れるが、女房達が応対するばかりである。
そこに、たまたま兵部卿の宮がやってくる。
源氏は藤壺の宮の兄として、また、若紫の父として親しみを感じ、しみじみと話をする。
しかし、若紫のことを明かすことはなく、兵部卿の宮もまさか源氏を娘婿になどとは思っていないのであった。

二条院の若紫とその噂を聞く紫の上

二条院の若紫は源氏との生活に慣れてくるにつれ、ますます性質も器量も申し分なく、無邪気になつくようになっていった。
源氏が夜に出かけていく際に後を追いかける姿はたいそう可愛く、源氏が不在の時に塞ぎこんでしまうのは可哀そうに思う。
まだまだ幼さが残りあどけない若紫。
正月になり、一つ年を取った若紫であったが相変わらず人形遊びをしている。
そんな彼女に対し女房が「十を過ぎたら人形遊びなどはしてはいけないと言われているのです。婿君もいるのだから少しは奥方らしくなるように」などと意見をする。
それを聞いて初めて、女房達の夫は醜い者ばかりなのにあの美しく若い人が自分の夫なのだと心の中で思うのであった。

二条院に女君が迎えられたという噂は左大臣邸にも伝わっていた。
迎えられた女性がまだ少女だとも知らない葵の上はいい気持にはならない。
しかし、源氏が左大臣邸を訪れても、源氏に恨み言を言うでもなく、気にしていないそぶりで澄ました態度である。
源氏は葵の上の堅苦しい態度を気づまりに思うのであった。
葵の上の父である左大臣は、源氏が寄り付かないことをあんまりだと思っていた。
一方で、源氏ように美しい人が婿として自分のお邸を出入りしていることは幸せなことだとも思い、源氏を大切に世話するのであった。

運命の皇子の誕生

藤壺の宮の出産予定は十二月であったが、正月になり、さらに二月になっても生まれない。
物の怪のせいではないかと人々が噂するのを聞き、懐妊日を偽っている藤壺の宮は気が気でなく心が乱される。
源氏も出産日が遅れていることでいよいよ自分の子であると確信し、藤壺の宮との恋もこのまま終わってしまうのだろうかと思い悩む。
そして二月十日過ぎ、ようやく男の子が生まれる。
源氏は様子を伺いに藤壺の宮のもとを訪れるが、若君と対面させてはもらえない。
それもそのはず、若君の姿は源氏の生き写しのようであったのだ。
藤壺の宮は人が若宮の姿を見れば源氏との過ちに気づくに違いないと思うと情けなく、ますます思い悩むのであった。

四月になり、若宮が参内する。
源氏にそっくりな若宮の姿を見た帝は源氏と藤壺の宮の過ちが想像できるわけもなく、美しいものはこんなにもよく似るものなのかと思うのであった。
藤壺の宮のもとで管弦の遊びがある際には源氏も呼ばれるのが常であった。
源氏がやってくると帝は若君を抱いてみせる。
そして「皇子たちはたくさんいるけれども、お前のことはこの子のように幼いころから一日中側に置いていた。その頃が思い出されるからなのか、この子が実にお前に似て見える」と言う。
それを聞いた源氏は顔色が変わる思いがし、複雑な感情で心が乱される。
藤壺の宮もとてもつらく、汗がしとどになるほどであった。

二条院に退出してからもふさぎ込む源氏。
そんなときの気晴らしになるのはやはり若紫であった。

恋多き老女、源典侍

想い人が多い源氏であるが、宮中においてはそうでもない。
帝も宮中には美しい女房たちが揃っているのに源氏との噂は聞かないので、いったいどこを隠れ歩いているのだろうかなどと思っていた。
女房から声をかけられても上手くあしらい、興味を示さないので女房達の間では真面目過ぎると思われることもあった。
しかしそんな源氏が興味を持った女房がいた。
たいそう年を取った典侍で、家柄もよく才気もあり、上品な仕事ができる女性である。
しかし色事のこととなると軽々しく、好色な性格であった。
源氏は年を取ってもなお、好色なのはどうしてだろうと興味をそそられ冗談半分で声をかける。
すると典侍は若くて美しい源氏と不釣り合いだと思っている様子もなく、まんざらでもないようだ。
あきれた源氏であるが、こんな女性も面白いと夜を共にしたこともあった。
しかし、典侍はかなり年上でとても釣り合っているとは思えない。
このことが噂になってしまっては極まりが悪いので素っ気ない態度をとるようになる。
そんなつれない源氏の態度を典侍は悲しむのであった。

ある日、典侍は帝の御髪上げの役を勤めていた。
それが終わると帝はお召替えのために別の女房と部屋を後にする。
この日の典侍がいつもよりも華やかにしゃれて見えた源氏は、若作りだと思いながらも、どういうつもりなのだろうかと興味も湧いてきてしまい、典侍の裾を引っ張ってみる。
振り返った典侍の目は思い入れがたっぷりの流し目で源氏が相手にしてくれないことを恨むような歌をよこしてきた。
そのような二人のやり取りを誰かに見られたら体裁が悪いと気にする源氏であるが、典侍は一向に気にしない。
その場を立ち去ろうとする源氏の袖をつかんで大げさに泣いて見せるのであった。
その様子を帝は障子の隙間から覗いていた。
女房達の間でも源氏と典侍の関係が噂になる。
その噂を聞き付けた頭中将。
女性のことについては抜け目なくいろいろと知っているが、老女のことは考えたことがなかったと興味を持ち、典侍と関係を持つようになる。

頭中将との笑い話はつきない

その後も典侍との関係に気乗りしない源氏であったが、あまりに素っ気ない態度を取り続けるのも気の毒だと思い、典侍の誘いに従う。
その様子を見ていた頭将。
いつも色恋のことで自分だけが真面目ぶり、人のことばかり咎めてくる源氏のことを面白くないと思っていた頭中将はこの機にやり返してやろうと、しばらく様子を見ることにする。
夜が更けてきて源氏と典侍がまどろみ始めてきたころ、頭中将はそっと部屋の中に入る。
源氏はすぐに人の気配に気づいたが、頭中将だとは思わない。
頭中将は自分だと気づかれまいと想い人を寝取られ激怒した男のふりをしてみせるが、かえってその様子で源氏に正体をさとられてしまう。
お互いの正体が分かった後は、何だかおかしくなり、わざと修羅場を演出して互いの服が千切れるほど暴れまわり、仲良く連れ立って帰っていった。
翌日、清涼殿に参上した二人は何事もなかったかのように振舞うが互いの顔を見てはにやにやし笑いをこらえていた。
頭中将はその後も何かにつけてはこの夜のことを持ち出し、源氏をからかう種にしていた。
しかし、妹の葵の上にも告げ口することはなく、二人の秘密の出来事となった。

遠い存在になっていく藤壺の中宮

七月になり、源氏は宰相に、藤壺の宮は中宮になる。
帝は自分が譲位し、現在の東宮が帝となったあと、若宮を東宮にと考えていた。
そこで藤壺の宮を中宮の立場に据えることで、若宮の後見を強固なものにしたかったのである。
現在の東宮の母である弘徽殿の女御は藤壺の中宮が自分よりも立場が上になったことに対し心穏やかにはいられない様子であった。
藤壺の中宮が入内する夜、源氏もお供の役を務める。
彼女が乗る神輿の内を思っては、さらに遠いお方になってしまったと苦しくなる。
そして、若宮は成長するにつれ、ますます源氏に似ていくのであった。

【感想】源典侍の物語が若君の誕生に合わせて語られる意味

第七帖「紅葉賀」は源氏と藤壺の子が誕生する、とても重要な帖です。
この誕生した若君は二人の許されない一夜の証であり、この後の物語にも大きく影響を与える出来事だからです。
そんな重要な皇子の誕生という出来事の傍らに綴られるのが、好色な老女「源典侍」との物語です。

典侍はこの帖で初めて登場します。
私はこの帖を初めて読んだとき、あまりも唐突な老女の登場に戸惑いました。
直前まで一夜の過ちが引き起こした出来事に悩む藤壺の宮の苦しい気持ちを痛いほど感じていたのに、典侍というパワフルな女性が物語の雰囲気を一変させたためです。
紫式部があえて二つの出来事を同じ帖にまとめた理由を考えてみました。

源氏と藤壺の宮の悩みの深さの違いを強調させるため

帝が若君を抱きかかえ、源氏に向かって「お前にそっくりだ」と見せるシーンは、読者もひやひやさせられ、当事者である源氏や藤壺の宮の後悔や恐れはどれほどのものだろうと想像します。
しかし、この出来事の直後に典侍が登場します。
興味本位で典侍にちょっかいをかけ、思いのほか乗り気な典侍に引いてしまう源氏。
先ほどまで悩んでいた姿は何だったのかと思わされます。
出産で命を落とす母も多い中、自分は無事だったことを辛いとさえ思ってしまうほど悩む藤壺の宮。
典侍との滑稽譚を入れることで、藤壺の宮と源氏の悩みの深さの違いがより際立ってみえます。

帝が二人の関係に気づかないことを不自然に思わせないため

源氏にそっくりな若君を見ても特に疑った様子を見せない帝。
まさか自分の妻と息子が深い関係にあるなんて考えないのも分かりますが、単純にそれだけではないのではと思います。
源氏は宮中においては真面目な青年と思われるほど女性に興味を示しません。
帝に仕える女性は美しい人も多い。
それなのに浮いた話を聞かないため、いったいどこのどんな女性の間を渡り歩いているのだろうかと帝も不思議に思っているぐらいです。
そんな時に帝が目撃したのが源氏と典侍の色恋のやりとり。
帝も源氏の趣味に苦笑いです。
源氏の変わった趣向を目の当たりにすることで、帝にとっては源氏と藤壺の宮の関係がより想像もつかないものになったように思います。

一方で、帝が源氏と藤壺の宮の関係に気づいていたのではないかという見方もあります。
作中でその真相は語られませんが、全てを知ったうえで二人を許し、若君をも愛したのではないかと。

「お前にそっくりだ」と若君を抱いて見せる帝の真意。
皆さんはどう考えますか?

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