【源氏物語】第五帖 「若紫」のあらすじを分かりやすく紹介

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源氏の生涯の伴侶となる紫の上との出会い。
源氏はまだ幼い彼女に禁断の想い人である藤壺の宮の面影を見ます。
そして藤壺の宮との二度目の逢瀬と懐妊。
この帖では藤壺の宮との苦しい恋の物語と紫の上との生涯に渡る恋の始まりが綴られます。

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明石の君の噂話

源氏十八才の三月。
瘧病わらわやみ(現在のマラリアのような病)を患った源氏は明け方、北山の行者のもとへ加持祈祷を受けに行く。
さっそく噂通りの高徳の聖から加持などを受けた源氏の気分は多少良くなり、日が昇ると外に出て景色を眺望する。
辺りには僧坊(僧侶が住む建物)があちこちにあったが、その中に一際すっきりとした小柴垣に囲まれた小綺麗な家で風情よく見えるものがあった。

寺に戻った源氏であったが、昼になるにつれて具合が悪くなってしまうのではないかと不安に思う。
そんな源氏に対し従者たちはあまり病気の事を考えない方がよいと言うので、山を登って素晴らしい京の景色を眺める。
従者たちが源氏の気を紛らわせるために地方の海や山の話を続ける中、源良清が播磨の明石の浦に住む入道の話を始める。
入道は変わり者の偏屈で都での出世を捨て明石の国守となったものの、国の人々に侮られたため、現在は出家しているという。
しかし出家したあとも人里離れた山に籠ることはなく明石の海辺で国守時代の財で豪邸を構え悠々と暮らしている。
この入道には器量も性質もなかなかによい一人娘がいる。
入道はその娘の将来を格別に思案しており、入道自身がこれぞと思うような最上の男が現れない場合は海に身を投げて死ねとまで言い聞かせているらしい。
その話を聞いた源氏は、田舎に住む器量のよい秘蔵子である明石の娘に興味をそそられるのであった。

想い人に似た少女との出会い

夕方になっても発作は起こらなかったが、聖の勧めにより一晩寺に泊まってから山を下りることに決める。
夕靄にまぎれて、気になっていた小柴垣の家の辺りへ従者の惟光だけをお供に出かけていく。
垣根の隙間から覗くと、見るからに身分の高そうな尼がお勤めをしているのが目に入る。
そして、女房が二人ほどいる他、女童たちが出たり入ったりして遊んでいる。
その女童の中に他の子どもたちとは似ても似つかないほど、大人になった姿がさぞかしと思えるような顔立ちの十歳くらいの女の子がいた。
源氏はその子の姿にとてつもなく心を惹かれる。
その理由が心の限りを尽くし思い慕っている藤壺の宮に少女の面影が似ているからであるということに気づいていた。
そして、あの子がいったい誰の子なのか、あの恋しいお方の身代わりに側に置いて、明け暮れの慰めにしたいものだと考えるのであった。

少女の正体

その夜、僧坊の主である僧都から家(夕方に覗き見した僧坊)へと招待される。
そして、尼のことや少女のことを僧都から聞き出すのであった。
僧都の話では、尼は僧都の妹で夫であった按察使大納言が亡くなった後出家をしたが、現在は体調を崩し北山に籠っているという。
尼には一人娘がおり、たいそう大切に育てていたが、いつの頃からか兵部卿の宮が通うようになっていた。
兵部卿の宮には高貴な身分の北の方がいたため、尼の娘は思い悩みそれが原因となったのか病気になって亡くなってしまったという。
尼の娘と兵部卿の宮の間には一人娘がおり、その子が夕方に覗き見たあの女の子であった。
この話を聞いた源氏は、少女が藤壺の宮に似ている理由に納得する。
少女の父である兵部卿の宮は藤壺の宮の兄であり、少女は藤壺の宮の姪ということになるからだ。
その事実を知った源氏は益々少女に心惹かれ、自分の手で理想通りの女に育て上げたいものだと思うのであった。

さっそく僧都に少女の後見役にならせてもらえるよう尼に伝えてくれないかと申し出るが、まだ大変幼い少女であるため本気に思ってもらえない。
そこで源氏は、直接、尼に対して少女への思いを伝えてみる。
しかし尼もあまりにも幼い少女に対しての源氏の思いに何かの間違いだろうと戸惑い、四、五年経ってからならと返事をよこすのであった。
翌朝、病もすっかり良くなった源氏の迎えに、家来たちがたくさんやってくる。
そして、春の素晴らしい花に足も止めず引き返すのはもったいないと源氏の出発にあわせて美しい花を眺めつつ音楽を奏で始める。
その場で源氏が岩にけだるげによりかかる姿は何にも比べようもなく不気味なほど美しいものであった。
庵の中で源氏の姿を目にした少女も幼心になんと素晴らしいお方だと思い「お父様よりもずっとお綺麗ね」などと言っている。
そして、それからはお人形遊びにもお絵描きにもこれは源氏の君よと決め、綺麗な着物を着せて大切にしているという。

葵の上との心の距離

都に戻った源氏は宮中に参内し、帝に報告をする。
そして左大臣の勧められ、左大臣邸へと行くことになる。
左大臣邸には妻である葵の上がいるが、すぐには姿を見せず、ようやく出てきてもかしこまった態度のままである。
源氏が北山の話などをしても愛想よく返事をすることもなく二人の距離は歳月がたつほどに疎遠になっていくように感じられた。
寝所に源氏が入っても、葵の上がすぐについてくる様子もなく、源氏は他の女性のことに思いを巡らせる。

藤壺の宮との切ない逢瀬

その後も源氏は北山の僧都と尼君に手紙を送ったり、従者である惟光を使いにやったりし、少女への思いは真剣だと伝えはするものの、返事は「まだ幼すぎるので」というものであった。

そうこうしているうちに藤壺の宮が体調をくずし里に戻ることになった。
源氏はこの機会を逃してしまってはいつ会うことができるだろうかと藤壺の宮の女房である王命婦になんとか手引きしてもらえないかと何度も何度も頼み込む。
とうとう、王命婦は周りの目を盗み、源氏を藤壺の御帳台まで引き入れる。
源氏は、夢にまで見た藤壺が目の前にいることを現実のこととも思えず、短い逢瀬に切なく苦しむのであった。
一方藤壺は源氏との悪夢のようであったあの一夜の逢瀬のことを一時も忘れられないほど悩んでいた。
そして、せめて二度と同じ過ちを繰り返すことのないようにと心に決めていたのに、再びこのようなことになってしまったことを情けなく思っていた。
しかし一方で源氏への態度は優しく情のこもったものでありながら、馴れ馴れしくも冷たくもなく奥ゆかしく優雅なものであった。
源氏はそんな藤壺の姿に他の姫君とは比べようもなく本当に欠点の一つもないお方だと恨めしくも思えるほど魅了されるのであった。

その後、藤壺が妊娠していることが分かる。
藤壺は源氏が父であるということに思い当たるが、誰にもそのことを告げず、物の怪のせいで懐妊のしるしもはっきりしなかったと妊娠の時期を偽る。
懐妊の知らせを聞いた帝は非常に喜び、藤壺のことをますます愛おしいと思うが、藤壺にはその思いさえも恐ろしく、悩み苦しむ。
源氏も藤壺が妊娠したことを聞いて、まさか自分の子どもではないだろうかと思い、切ない心の思いを綴った手紙を藤壺へ送るも返事は一切こなかった。

ようやく藤壺が参内すると久しぶりに藤壺に会えたことと懐妊のこともあり、帝の寵愛は深まるばかりであった。
帝は藤壺のそばを離れず、管弦の遊びも深まる秋が近づいていることもあり、源氏も側に呼び、琴や笛を演奏するように命じる。
源氏は苦しい心のうちを懸命に隠そうとするが、時折耐え難い様子が漏れそうになる危うい様子も見せる。
藤壺もそれを感じ取っては苦しく思うのであった。

少女を強引に手に入れた源氏

北山の尼が秋の末に亡くなった知らせを受けた源氏。
京にある尼の屋敷に少女が戻っていることを聞き、屋敷を訪れる。
屋敷は寒々しく荒れており、住んでいる人も少ない様子である。
女房達から尼のご臨終の様子や少女の話を聞く。
父親である兵部卿の宮が少女を引き取ると言っているけれども、兵部卿の宮には正室がいて、その正室の子どもたちの中に入ってもいじめられてしまうのではないかと女房達は心配している。

そこに父親が訪ねてきたと勘違いした少女が入ってくる。
源氏がこっちへおいでと声をかけると少女は父親ではないことに気づき几帳の中に逃げてしまう。
そんな姿も可愛いと思う源氏は、自分も御帖台の中にすべりこみ、少女に優しく声をかける。
少女は源氏の優しい声にひどく怯えることはなくなったが、何となく落ち着かない様子でもぞもぞと身じろぎしながら横になっている。
まだ夜が明けきらないうちに帰る源氏の姿はまるで恋を遂げた時の朝帰りのようにも見えた。

後日、源氏の従者である惟光が再び少女の屋敷を訪れると、屋敷中があわただしい様子である。
どうやら、明日、兵部卿の宮が少女を引き取りにくるという。
それを聞いた源氏は少女が兵部卿の宮のもとへ行ってしまっては、そこから連れ出すのは難しいと兵部卿の宮よりも先に少女を二条院に連れてくることを考える。
明け方、車を屋敷につけた源氏は寝ている少女を抱きかかえて、半ば強引に二条院へ連れて帰る。
少女はたいそう気味が悪く、震えて泣いている。

源氏は翌朝、着物にくるまって寝ている少女を起こし「いつまでも沈み込んで私を困らせてはいけない。女というのは心が柔和で素直なのがいいのですよ」などとさっそく躾をしている。
最初は怯えた様子の少女であったが、源氏が遊んだり優しく話したりしているうちにだんだんと打ち解けてくる。
そして、しばらくすると源氏にすっかりなつき、甘えて話をしたり、遠慮したり恥ずかしがることもなく源氏の懐に入って無邪気に抱かれたりとこの上なく可愛らしい様子をみせるのであった。

一方、父親の兵部卿の宮は少女の屋敷の女房達に事情を聞くが、少納言が行方も言わず連れて行ったと言うばかりで真実を話す者はいない。
兵部卿の宮は少女の居場所を突き止めることはできなかった。

【感想】藤壺の宮はやはり特別な女性

この帖で初めて、藤壺の宮と以前に関係があったこと、そして二度目の逢瀬が綴られます。
「藤壺の宮との逢瀬と妊娠」「若紫の強引な連れ去り」
この2つは同じ時期の出来事であり、普通に考えると最愛の人(しかも帝の妻であり自分の義母)が自分の子どもを妊娠しているかもしれない状況で、幼い少女を強引に奪い去るという行動は理解し難いものです。
しかし、私は藤壺の宮の妊娠があったからこそ、源氏は無理やりにでも若紫を連れ去ったのだと思います。

藤壺の宮は源氏が父であることを誰にも告げず、妊娠の時期を偽るという一世一代の嘘をつきます。
そして、源氏の手紙に対する返事も妊娠前までは時々返していましたが、妊娠後は一切返すことはなくなります。
その藤壺の宮の決意を源氏は感じ取り、叶うことのない恋、望んではいけない恋であるということを再認識したのではないでしょうか(それでも諦めないのが源氏です)。
しかし、藤壺の宮への思いが消えるはずもなく(むしろ困難な恋にこそ燃える源氏)、苦しい心を紛らわすことができる唯一の女性が藤壺の宮の面影がある若紫なのです。
藤壺の宮との恋の道が困難になることで思いが募れば募るほど、若紫への情愛も深くなり、強引な行動の後押しとなったのでしょう。
この時点での源氏の若紫への愛情は行き場をなくした藤壺の宮へ愛情を紛らわすためのものだったと私は思います。

幼い頃は藤壺の宮に母を重ね、やがて恋心を募らせていった源氏。
そして生涯の伴侶となる若紫に惹かれたのは、藤壺の宮に似ていたから(彼女の姪であり血縁者でもある)。
源氏の恋の道の根底に常にあるのは藤壺の宮への苦しいまでの恋慕、そして幼い頃に亡くした母への憧れなのです。

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