【源氏物語】第四帖 「夕顔」のあらすじを分かりやすく紹介

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家の垣根に咲く夕顔の花に導かれるように出会う源氏と夕顔。
彼女との出会いは偶然であり、別れは突然です。
第四帖 夕顔では源氏と夕顔の短い愛の物語が綴られます。

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夕顔の花が取り持つ恋

源氏十七才の夏。源氏は六条に住む新しい恋人のところへ通っていた。
源氏より七つ年上の六条の御息所である。
ある日のこと、源氏は六条の御息所の元へ行く途中に、病を患い出家した乳母を見舞うため五条にある乳母の家を訪ねる。
この家の周囲には小さな家々が立ち並んでいた。
源氏が乳母の家の前で門が開くのを待っていると、隣家の垣根から数人の女性の額がちらちらと覗いているのが目に入る。
それと同時に、源氏はその家の垣根に咲く、夕顔の白い花に心惹かれる。
源氏が夕顔の花を一房折ってくるように従者に伝えるとその声が聞こえたのか、家の住人は女童を通じて花を扇にのせてよこしてきた。
扇には和歌が添えられている。
この出来事をきっかけに源氏は小さな家に住む女に興味を持ち、乳母の息子である惟光に女の正体を調べさせるのであった。

空蝉との別れの予感

一方その頃になっても、空蝉との関係は進展しないままである。
(空蝉との出会い、恋模様は「帚木」 「空蝉」参照)
二度も振られている源氏はくやしさもあり、空蝉のことを忘れられずにいた。
空蝉と間違って一夜をともにした継娘である軒端の荻ことも忘れたわけではないが、さして気にとめていない。

そうこうしている内に、空蝉の夫である伊予の介が上京してくる。
伊予の介は、娘は適当な相手と結婚させ、妻と伊予に下るつもりだと話す。
それを聞いた源氏は何とかもう一度空蝉と会えないものかと心が乱れる。
軒端の荻については、結婚しても源氏の誘いを待っていそうな様子なので、縁談話を聞いても動揺はしない。

源氏の冷め行く心と燃える心

秋になった。この頃になると源氏の六条の御息所への愛情は冷め始めており、彼女の元へ通う頻度も少なくなっていた。
六条の御息所は前の東宮(皇太子)の未亡人で、高貴な美しい女性だ。
彼女は高い身分でありながら、自分よりも年下の源氏にのめり込み、さらには飽きられたという噂がたってしまったらどうしようかと思い悩む。
源氏が訪ねてこない夜を一人で過ごし、悲しい思いに苦しむ六条の御息所であった。

一方で惟光の手引きにより、夕顔とも逢瀬を重ねることに成功した源氏。
しかし、彼女は自分の身分を明かすことはなく、源氏もわざと身分の低い狩り衣を着て、正体を隠したままであった。
源氏は彼女の正体について、雨夜の品定め(「帚木」参照)で頭の中将が話していた女ではないかと見当をつけるものの、聞いて確かめるようなことはしなかった。

夕顔は素直でおっとりしており、初々しく無邪気な女性である。
しかし、男女の仲を全く知らないという訳ではなく、不思議な魅力を持っていた。
源氏は朝別れ、夜に会うまでの昼間のわずかな時間でも胸が苦しくなるほど夕顔に夢中になっていく。

夕顔の突然の死

夕顔の家は周囲に他の家々が立ち並ぶ庶民の家。
隣家の住人の話し声や米をつく音、虫の声などが寝所の壁越しに聞こえてくる。
そんな様子も源氏にとっては珍しく悪くは思わない。
しかし、やはり二人きりで過ごしたいと考えた源氏は、ある日の明け方、夕顔を外へと連れ出そうとする。
行く先も分からない夕顔はためらったが、そんな彼女を源氏は抱き上げ、半ば無理やり車に乗せて、夕顔の侍女である右近だけをお供に隠れ家へとやってくる。

隠れ家は手入れが行き届いておらず、人気もない不気味な場所であった。
夕顔は怯えていたが、源氏はそんな夕顔の姿も可憐で可愛いと思う。
そして、日が昇ると初めて源氏は夕顔に素顔を見せる。
それでも身分を明かさない夕顔であったが、二人は一日中一緒に過ごし、仲を深めていく。

その夜のことであった。
源氏がまどろみ始めたところに、「自分が心から慕っているのに全く会いに来てくれない」と恨みごとを言い、夕顔に手をかける美しい女の夢を見る。
苦しくなり目を覚ました源氏であったが、灯りは消え、周囲は真っ暗闇である。
怯える夕顔を右近に託し、人を呼びに行く源氏。
しかし源氏が夕顔の元へ戻ってくると、彼女はすでに息をしていなかった。
そして、彼女の枕元に先ほどの夢で見た女が幻のように浮かび、消えていく。
気味悪く思う源氏であったが、それ以上に夕顔がどうなってしまうのかと動揺し、彼女を抱きしめ「お願いだから生き返っておくれ。こんなつらい目をみさせないでおくれ」と悲しむ。
しかし、夕顔の体は冷え切ってしまっていた。

茫然自失の源氏

夜が明け、ようやく惟光が参上し、この夜のことが噂にならないよう、夕顔の亡骸は惟光が知り合いの尼の家に移し、葬儀を執り行うことになる。
源氏も夕顔の最期を見届けたいと思ったが、人の通りが多くならないうちに二条院に帰るようにという惟光の言葉に従い、隠れ家を後にする。

しかし、どうしても夕顔にもう一度会いたい源氏は、その夜、馬に乗り亡骸の元へとやってくる。
夕顔の亡骸は本当に可愛らしい様子で、生前と全く変わらないように見えた。
源氏は彼女の手を取り「せめて声だけでも聞かせておくれ。あんなに愛し合ったのに先に逝ってしまうなんてひどい」と声を押し殺すこともせず泣いた。
時間は無常にも過ぎていき、夜が明ける前に後ろ髪を引かれながら夕顔のもとを去る。
源氏は馬に乗ることもままならないほど弱り切っており、とうとう途中で滑り落ちてしまうが、それでも惟光に支えられながらなんとか二条院まで帰り着くのであった。

その後しばらく寝込んだ源氏であったが、重い病気の中でも、夕顔の侍女である右近を側に呼び、仕えるように手はずを整える。
そして、何とか回復したのちに、右近から夕顔の過去の話を聞くことになる。
夕顔はやはり頭の中将が話していた女と同一人物であったのだ。
そして、夕顔を亡くした今、せめて頭の中将と夕顔の娘を引き取りたいと思うようになる。

寂しい秋の暮

ところで、空蝉と源氏はあれ以来会うことはなかったが、手紙のやりとりは続けていた。
源氏も空蝉のことを忘れたわけではなかったし、空蝉も源氏から非常な女だと思われたまま別れたくはないと思い迷っていたのだ。
しかしついに、空蝉が伊予の介とともに任地へ下る日がやってくる。
源氏は歌と共にあの日空蝉が残していった小袿こうちぎを添えて贈る。
秋の暮に、今は亡き夕顔と遠い地へ去っていく空蝉に思いを馳せる源氏であった。

【感想】夕顔の魅力と源氏の性分

不思議な魅力を持つ夕顔

源氏に愛されながら死んでいった夕顔。
彼女の魅力はどこにあったのでしょうか。

夕顔は可憐で大人しい女性です。
心細いことがあっても男を頼りにし、その身を全て預けるようなあどけなさを持っています。
まさに純真無垢といった感じでしょうか。
しかし一方で、全く男を知らないという様子でもなく、謎めいた部分も見られます。

また、夕顔を連れ去った隠れ家にて、源氏は顔を初めて見せ「私の顔はどうですか」と尋ねます。
これは二人が出会ったときに、夕顔が歌で「白露の光をまとう夕顔の花のようなお顔」と源氏の容姿を例えたことになぞらえた質問です。
この問いに対する夕顔の返歌が彼女の魅力をより一層際立たせます。
まずはその歌をご覧ください。

光ありと見し夕顔の上露はたそかれどきのそら目なりけり
(光り輝いているように見えたお顔は黄昏時の見間違いでした)

ここまで描かれてきた夕顔は源氏をひたすら無邪気に慕い、身を預け続ける女性であったのに対し、この歌ではちょっと引いてみるというテクニックを見せています。

ついつい守ってあげたくなるようなあどけなさと時折見せるミステリアスな雰囲気、さらに男をからかうようなユーモアも併せ持つ女性。それが夕顔です。

気苦労な恋に燃える源氏

今回ご紹介した「夕顔」を含む帚木・空蝉・夕顔の三帖は全て源氏十七歳の出来事で、これから続く源氏の恋多き人生のスタートとなる帖でもあります。
ここで第二帖「帚木」の冒頭にある一文を紹介します。

<原文>
(前略)まれには、あながちに引き違へ心尽くしなることを、御心に思しとどむる癖なむ、 あやにくて、(後略)

<現代語訳>
(前略)まれに、強引で予想だにしない精魂を使い果たすほどの恋をお心に思いつめなさる性癖があいにくおありで、(後略)

この一文で、源氏が気苦労の多い恋を好む癖があることに言及されており、「夕顔」でもその癖が随所で見られます。

夕顔の帖に登場する源氏の想い人は「夕顔」「六条の御息所」「空蝉」「軒端の荻」の四人。
「夕顔」はその正体を最期まで隠しており謎めいた魅力を持っていることに加え、友人である頭の中将の想い人であるかもしれない人物です。

「六条の御息所」は前の皇太子の妻という高貴な身分の女性であり、普通の男性では手を出すことができない美しい女性です。
しかし、彼女の夫は亡くなっており、一度彼女が心を開けば二人の障害になるようなものはありません。
そのため、六条の御息所が手に入った瞬間から彼女への情熱は徐々に冷めていくことになるのです。

「空蝉」は言わずもがな、源氏の愛を拒み続けた女性です。
源氏の性分を考えると、拒まれれば拒まれるほど、想いが強くなっていくと言っても過言ではないのです。

一方の「軒端の荻」。彼女とは誤って一夜を共にすることになるのですが、それ以降、時々思い出したように手紙を送ることはあっても、情熱を燃やすほどにはならないのです。
それは彼女が源氏を慕っていることが明らかであり、何一つとして障害がないからなのでしょう。

このように「夕顔」に登場する四人の女性に対する源氏の態度を見るだけでも、その特異な性癖が分かります。
そして、これから始まる源氏の恋物語が前途多難なものであることを示唆しているのです。

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